大阪高等裁判所 平成8年(ネ)1760号 判決 1997年3月27日
神戸市<以下省略>
控訴人
(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)
オリオン交易株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
山下顕次
大阪市<以下省略>
被控訴人
(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)
X
右訴訟代理人弁護士
松葉知幸
同
澤登
主文
一 控訴人の本件控訴及び被控訴人の本件附帯控訴をいずれも棄却する。
二 原判決主文第一項中、控訴人に関する部分の「九三一万八三六〇円」とあるのを「九三一万〇八三六円」と更正する。
三 控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。
2 被控訴人の本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 控訴人の本件控訴を棄却する。
2 原判決中、控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人に対し、一五四一万八〇六〇円及びこれに対する平成二年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示中、控訴人に関する部分と同一であるから、これを引用する。
1 原判決四頁九行目の末尾に続けて次のとおり付加する。
「被控訴人は、中学校卒業の学歴であり、字を書くのが苦手で、本件取引においても、当初は弟のBに署名等の代筆をして貰っていたもので、長年にわたり溶接工として働き、本件商品先物取引をする八年程前にBとともに個人営業のa製作所を興し、従業員として二名の溶接工を雇い、自らも溶接工の仕事をしていたもので、商品取引についての知識、理解力が全くなかった。」
2 同五頁四行目の「被告Y1は、」から同五行目の「勧誘した。」までを、次のとおり改める。
「控訴人の営業部に所属する従業員である登録外務員Y1(以下『Y1』という。)は、平成元年八月中旬に一面識もない被控訴人及びBの工場を訪れて商品先物取引をするように勧誘した上、同年八月中旬頃から同年一〇月中旬にかけて、被控訴人とBに対し、電話で頻繁に商品先物取引をするように勧誘した。」
3 同九頁一〇行目から同一〇頁末行までを、次のとおり改める。
「控訴人の従業員であるY1及び同Y2の右各行為は、次のとおり全体として不法行為となる。
(一) 断定的判断の提供(商品取引所法九四条一号)及び投機性の説明の欠如(全国商品取引所連合会制定の取引所指示事項4、商品取引所法の規定に基づき商品取引所が定めた受託契約準則一六条)
Y1らは、被控訴人に対し、『株よりも安全です。』『株だったら下がれば損をするが、商品取引は下がっても利益がとれます。』『任せて下さい。必ず儲かります。』などといって、投機性を説明するどころか必ず利益が出る旨の虚偽の説明をし、その後も被控訴人がB名義で取引をするに当たり、『間違いない。確実です。』とか、ゴム取引を勧誘する際に『これ以下に下がることはありません。これより下がれば国が介入して支えますので絶対間違いありません。』とか、『Y1銀行に預けたと思って安心して下さい。』などと言って説明している。
(二) 一口制の勧誘(取引所指示事項6)
売買単位を説明せず一口と称して大きな取引を勧誘することは禁止されている。
Y1らは、被控訴人とBに対し、取引開始に当たり『五枚からの取引です。』と説明し、本来一枚が取引単位であるのに五枚が最低取引単位であると虚偽の説明をしている。
(三) 新規委託者保護管理規則違反(全国商品取引員大会における協定書に基づき定められたもの。)
同規則は、知識、経験に乏しい新規委託者を保護するため、初めて売買取引を行う日から三か月間を保護期間として、その間の建玉枚数を二〇枚に限ることとし、例外的に委託者がこれを超える建玉を希望した場合には特別担当班が委託者の知識、経験、判断力、資力などを顧客カードや調書に基づきチェックして決めることになっている。
ところが、被控訴人の取引は、取引開始後一二日目の一〇月三一日に二〇枚を超え、B名義の分も含めると僅か六日目で二〇枚を超えている。そして、一か月後の一一月二〇日には二九〇枚にも達している。しかし、特別担当班のチェックが右建玉の前に行われた事実はない。
(四) 実質的な一任売買(商品取引法九四条三号、同施行規則七条の二)
商品取引員は、委託者から、商品の種類、限月、売り買いの区別、価格、数量、建玉か落ち玉かの区別などの指示を受けないで委託を受けることを一任売買として禁止されている。
ところが、被控訴人とBは、商品の知識、商品取引の経験なしに取引を開始させられ、僅か一か月のうちに極めて過大な取引をしているが、被控訴人とBが自らできる筈がなく、実質的にはY1らに一任させられた売買である。
(五) 証拠金不足の建玉(薄敷)(商品取引法九七条、受託契約準則八条以下)及び必要証拠金についての虚偽の説明
商品取引員は、売買取引の受託をするに当たり、必要な証拠金全額を事前に預からねばならない。証拠金は、委託者に常に自己の資金量と取引のリスクの関係を認識させるという機能を持っている。
ところが、Y1らは、神戸ゴムの取引においては必要証拠金が不足のまま平成元年一一月二日後場の取引をさせている(乙第八号証の6)。B名義の神戸ゴムの取引においても同様である(乙第一一号証の6、第一二号証の6)。
逆に、Y1らは、豊橋乾繭の取引については、平成元年一〇月三〇日現在で建玉一〇枚で証拠金一〇〇万円であるところ、必要証拠金を一三〇万円であると説明して、不必要な証拠金を出させている。
このように、Y1らは、被控訴人とBの無知に乗じて、商品取引法や受託契約準則を無視しているのである。
(六) 両建
両建は、既存の建玉とは逆の売買玉を新たに建てるものであるが、相殺注文であり利益を生むものではない。両建は、建玉数が倍で手数料、証拠金も倍必要になり、商品取引員のみに利益のある取引である。
Y1らは、豊橋乾繭の取引開始に当たり、被控訴人に対し、両建を勧めて、両建から始めている。又、大阪粗糖の取引でも、平成元年一一月二一日には一四〇枚ずつの両建となっている。Y1らは、被控訴人から、このとき、不足資金を銀行から借入れて用意したことを告げられているのであるから、両建をやめるように指導すべきであった。
(七) 過当な売買取引(指示事項8)及び不当な増建玉(指示事項9)
商品先物取引においては、建玉数を次々と増加させること、とりわけ利益金を次の建玉の証拠金に充当して建玉を増大させることは、委託者に危険を増大させる。
被控訴人とBの取引は、短期間に二九〇枚まで急増している。一〇〇枚を越える一般委託者は希であるから、二九〇枚の取引は過大な取引であり、短期間のうちに不当に大量の建玉をさせているのである。このため、被控訴人らは、借金までして委託証拠金を調達しているのである。
(八) 無意味な売買取引(甲第一号証三七頁以下)
平成元年一〇月三〇日の豊橋乾繭の取引では、後場一節で五枚買い仕切り、続く後場二節で五枚売り建玉をしているが、同じ限月であり、いわゆる売り直しに該当する。ところが、この間に一〇月二五日の売り建玉をそのまま維持している。これは明らかに手数料不抜けである(売買損益は益だが、手数料を引くと損になる。)。
被控訴人らの本件取引には、手数料よりは益が大きいが、手数料を考えると、ほとんど意味がないという取引や、短期間の取引もあり、一般委託者の平均建玉期間と較べても異常に短い期間である。このような頻繁な建落ちを繰り返しつつ、建玉が急激に増大している。このため、被控訴人の損害の過半を手数料が占めているという結果になっている。一般的に、売り(買い)直し、途転、日計り、両建、手数料不抜けは、いわゆる客殺し、手数料稼ぎの手口となることが多いが、本件取引の場合も同様である。」
4 同一四頁七行目の「(一)、(二)の各事実は否認し、」とあるのを「(一)ないし(八)の各事実は否認し、」と改める。
5 同一七頁一行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「4 控訴人は、更に、『商品取引では元本は保証されていません。』『商品の売買はあなたのご意思によってご注文下さい。』『万一あなたのご存知でない取引が発見されましたら直ちに営業管理部(078-<省略>)まで御連絡下さい。』『相場の動きに対するアドバイスは当社社員がいたしますが、当社社員へ売買をお任せになることは絶対になさらぬようお願いいたします。』等見易い大きな文字で記した『お取引について』と題する書面及び『お願い』と題して商品先物取引の仕組の重要点、危険開示告知その他右と同旨の注意事項、損をした場合の追加証拠金納付義務、その納付のないときの建玉処分等の注意を記載した文書(グリーン用紙)を何度も被控訴人に送っている。(乙第七号証の3、第一〇号証の3、第一五号証の1・2)
その上、控訴人は、被控訴人とBの理解度をはかるために被控訴人とBに対し、二度アンケート調査を行っており(乙第七号証の10・11、第一〇号証の10・11)、もし理解が得られていないときは、必要に応じて被控訴人とBに更に説明する積もりでいたが、被控訴人とBは商品先物取引を理解していた。
委託証拠金預り証にも、裏面に商品先物取引の仕組や危険性の重点事項を記載して注意を促している。中学生にも理解できる文章で、くどいばかりに連続的に投機の危険性を開示告知するシステムである。
5 Y1は、被控訴人とBが本件商品先物取引を開始するに当たり、被控訴人とBに対し、小豆相場変動の要因、相場の危険性、損計算になった場合の対処法としての手仕舞、追加証拠金納入による建玉維持、両建による方法、ナンピンによる方法、それぞれの効用と対処法、証拠金の額などについて説明した。
控訴人の社員Cは、Y1の被控訴人とBに対する右説明の途中から加わり、商品先物取引について説明し、更に、新聞の見方、計算方法、売買方法、当時の市況等を補足説明し、限月と場節等の説明をし、計算方法、追証がかかったときの計算の仕方、手数料、追証を入れる場合及び両建の場合のことを説明図を書いて(乙第二九号証の1ないし3)、C自身だけでも三〇分程かけて説明した。
6 被控訴人とBは、Y1やCの説明を聞き、前記『商品取引の委託のしおり』、『商品取引ガイド』『お取引について』、『お願い』(グリーン用紙)の交付を受けてこれを読み、右各書面の受領書を提出し、アンケートにも重要事項の理解ができ異議がないと明確に答え、相場が予測と逆になった場合のこと、追加証拠金のこと、不納付の場合にどうなるか等のことを理解、認識したのである。
被控訴人とBは、控訴人から交付された各種の書面を読めば、容易に商品先物取引の仕組や危険性が理解できるのであって、これを読まずにその仕組や危険性を知らなかったと主張するのは、信義に反し許されない。
そして、被控訴人とBは、本件取引の過程で、利益をあげ、控訴人から頻繁に帳尻金を受領し、その領収書を作成している(乙第一六号証の1ないし13、一七号証の1ないし12)。
被控訴人とBは、取引の都度、控訴人から『委託売付・買付報告書および計算書』(乙第一八号証の1ないし、第一九号証の1ないし29)の送付を受け、『残高照合通知書』(乙第二〇、二一号証の各1ないし3)の送付も受けているが、その記載内容に異議をとなえたことはない。又、被控訴人とBは、取引終了に当たりこれを確認した『ご挨拶』(乙第二二号証の1・2)及び『領収書』(乙第一六号証の8・12・13、第一七号証の7・12)にも署名し、納得の上で控訴人との間で委託した取引の終了を合意している。
7 Y1やY2には、被控訴人とBの権利を侵害する故意や過失がなかった。商品取引員や登録外務員は、委託者の利益のために行動しているのであって、委託者と対立関係にあるのではない。
8 被控訴人とBは、兄弟で、四〇歳代という分別盛りの年齢で、a製作所という企業を八年間にわたって共同で経営してきた者であり、二〇歳のY1の勧誘を全面的に信用して騙されて、Y1に渡せば損をする筈がないと考えて事業に必要な資金を次々とY1に交付したなどとは到底考えられない。大切なお金を出すのに、自己の判断もなく他人の言いなりになる経営者はいない。被控訴人とBは、その年齢、社会的地位、経験等から、少なくとも物の価格変動の可能性とか経済に関しては、通常の社会人一般の水準を超える分別、判断力、理解力を有する人であり、はったりや誇張やデータに基づかない意見などは看破する知識、能力を持っている筈である。被控訴人とBは、その知識、理解能力からみて、自らの責任と判断で本件先物取引の委託注文をしたものである。
商品先物取引の仕組は、買いから入れば売り(反対売買)で終わり、売りから入れば買い(反対売買)で終わるものであり、一回でも取引をすれば完全に身につく程度の売買方法である。
被控訴人とBは、控訴人の従業員からの電話による勧誘を、時刻、時間、頻度が社会通念上許容されない程度に受けたことはなく、面会の強要や迷惑となる行為を受けたこともない。
9 本件取引の計算関係は、次のとおりなされるべきである。
(一) 被控訴人
大阪小豆 一七万四六〇八円の利益
大阪粗糖 一二一六万〇一一八円の損失
豊橋乾繭 一七七万九五一五円の利益
神戸ゴム 三二万七五八八円の利益
右の差引損益は九八七万八四〇七円の損失となる。これを委託証拠金と帳尻金との関係でみると、被控訴人の差し入れた委託証拠金が二三二二万〇二七一円、受領額が一〇五五万八六七八円、帳尻利益が二七八万三一八六円で差引九八七万八四〇七円の損失である。この明細は、別紙一、二記載のとおりである。
(二) B
大阪小豆 一四万六六〇一円の利益
大阪粗糖 三七四万九〇七三円の損失
豊橋乾繭 一九七万二五四二円の利益
神戸ゴム 三五万二四四六円の利益
右の差引損益は一二七万七四八四円の損失となる。これを委託証拠金と帳尻金との関係でみると、Bの差し入れた委託証拠金が一五三〇万〇〇〇〇円、受領額が一一〇四万九四五二円、帳尻利益が二九七万三〇六四円で差引一二七万七四八四円の損失である。この明細は、別紙三、四記載のとおりである。
よって、本件取引における全損失は一一一五万五八九一円である。
大阪小豆、豊橋乾繭、神戸ゴムの取引は、両名ともに利益であった。利益を生じた取引が不法行為となるものではない。
10 被控訴人は、Y1が豊橋乾繭の取引で両建を勧めて、三回にわたり委託証拠金を支払わせたと主張するが、右事実はない。豊橋乾繭の一枚当たりの必要証拠金は一三万円であり、一〇枚の建玉では委託証拠金一三〇万円が必要である。神戸ゴムの一枚当たりの必要証拠金は三万円であり、被控訴人もBも五〇枚の建玉をしたので委託証拠金は各一五〇万円が必要である
被控訴人は、Y1が相場が逆に行ったとして証拠金を出させたと主張するが、追加証拠金を支払って建玉を維持することは異例のことではなく不法行為ではない。」
6 同一七頁二行目の前に行を改めて、次のとおり付加する。
「四 控訴人の抗弁
1 Bの控訴人に対する平成六年八月二三日の債権譲渡の通知は、本件取引終了後三年以上経過してなされたものである。よって、控訴人は、Bの損害賠償債権について消滅時効を援用する。
2 仮に控訴人に不法行為による損害賠償責任があるとしても、被控訴人とBにも先に主張した事実からみて過失があるから、過失相殺すべきである。
五 抗弁に対する被控訴人の認否
1 抗弁1項の消滅時効の主張を争う。
2 同2項の過失相殺の主張を争う。
被控訴人とBは、控訴人の従業員の極めて悪質、違法な勧誘及び取引行為によって本件商品先物取引をしたのであり、右勧誘及び取引行為がなければ本件商品先物取引をして損害を被ることはありえなかったのであるし、知識経験を欠き商品先物取引を行う適格性がなかったのであるから、被控訴人とBの行為が過失相殺の対象となるものではない。」
第三証拠
証拠の関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記録中書証目録記載のとおりであるから、これを引用する
理由
一 当裁判所は、被控訴人の控訴人に対する本訴請求を不法行為による損害賠償請求権に基づき九三一万〇八三六円及びこれに対する平成二年六月五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示中、控訴人に関する部分と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一七頁末行の「認められる。」の次に続けて、次のとおり付加する。
「前掲甲第七号証、原審証人Bの証言、原審における被控訴人の供述によれば、被控訴人は、中学校卒業後鉄工所で働き、二〇歳のころ大阪に出てきて鉄工所に勤務して鉄鋼の溶接裁断の技術を身につけ、昭和五六年に大阪市港区で弟Bの協力を得てa製作所を始め、被控訴人を事業主、Bを従業員という形式で、被控訴人名義で納税申告し、Bに給料を支給するものの実質はBと共同して経営し、他に作業員二名を雇用し、溶接等の作業に従事し、金銭の細かい計算や書類の作成が苦手で帳簿記載や経理処理を自分ではできないため、経理をBが担当し、取引先から手形を貰い、小切手を振出すことはあっても自己の手形を振出したことはなく、平成元年夏ころのa製作所の営業資金は二〇〇〇万円程度であったこと、被控訴人は、中学生のときは学力不振で、学業成績は五段階評価では一か二という下位に位置していたこと、Bは、工業高校機械科を卒業していること、被控訴人とBは、控訴人に本件商品先物取引を委託した平成元年当時、四〇歳前後であったこと、a製作所は、営業資金を本件商品先物取引に使用したため、本件取引で損を出した後は営業資金がなくなり、仕事を続けられず、廃業し、被控訴人とBは別々のところで働いていることが認められる。」
2 同一八頁一行目の末尾に続けて、次のとおり付加する。
「成立に争いのない甲第一七号証、第二一号証の1ないし3、原審証人Cの証言によれば、Y1は、平成元年四月に控訴人に入社し、三か月間社内研修を受けて同年七月一日に商品取引員である控訴人の外務員として登録され、平成二年八月に控訴人を退職して外務員の登録を抹消されたものであるが、被控訴人とBに本件商品先物取引を勧誘した平成元年一〇月当時二一歳で、控訴人を退職した後所在不明であることが認められる。」
3 同一八頁四行目から同五行目にかけて「原告本人の供述及び前掲甲第七号証」とあるを次のとおり改める。
「前掲甲第七号証、原審における被控訴人の供述によって成立の認められる甲第八ないし一〇号証の各1・2、第一一号証、成立に争いのない甲第一六号証、乙第三号証の1・2、第七号証の1ないし11、第八号証の1ないし6、第九号証の1ないし6、第一〇号証の1ないし7及び9ないし11、第一一号証の1ないし6、第一二号証の1ないし6、第一三号証の1ないし14、第一四号証の1及び5ないし11、第一五号証の1・2、第一六号証の1ないし13、第一七号証の1ないし12、第一八号証の1ないし●●●、第一九号証の1ないし29、第二〇、二一号証の各1ないし3、原審証人Bの証言によって成立の認められる乙第一〇号証の8、第一四号証の2ないし4、原審証人Bの証言、原審における被控訴人の供述」
4 同一九頁六行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「被控訴人とBは、平成元年八月から同年一〇月ころa製作所の業務を堅実に遂行していたものであり、投機先や投資先を求めていたものではなく、Y1から商品先物取引を勧誘されても断っていたが、電話でしばしば取引の勧誘を受けていた(控訴人もY1が初期においては、三日に一回くらいの割合で被控訴人に勧誘電話をしていたことを認めている。)。」
5 同二一頁九行目の「その旨の契約書を作成し、」とあるのを「被控訴人とB名義の控訴人宛の承諾書及び通知書に署名押印して交付し(乙第七号証の1・2、第一〇号証の1・2)、」と改める。
6 同二三頁四行目の「一〇万九八七一円を持ってきた。」とあるのを「一〇万九八七六円を持ってきた(乙第一六号証の1・2、第一七号証の1)。」と改める。
7 同二四頁二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「Y1は、同年一〇月二七日にファックスで被控訴人宛に『Y1の相場の道』と題する文書を送付し、この中で、粗糖については今はなにもしない、動きがないものはやってもしかたがない、ゴムについてはそろそろ筋が入ってきたので、今の動きは一二九円台に押されてきっちりかえしている所、これも安い所があれば押し目買い方針で、大阪小豆については、押した所さえ買っていけばちょこちょこきっちりかせげるはず、ここは押し目をしっかり拾えばよい、豊橋乾繭については、やってきましたストップ安、皆さん心配していましたがここは安心してもらえたと思います、下は五五〇〇円当たりまで楽しみにしていて下さい、と記載した上で、更に『Y1の考え!』と題して、相場について、あきらめずに継続することの必要性を強調している。
Y1は、若年で、登録外務員になって数か月にすぎないのであるが、被控訴人とBに対し、終始、あたかも相場師として委託者の取引を指導するような態度で臨んでいた。」
8 同二七頁七行目の「被告Y2」を「原審相被告Y2」と改める。
9 同二八頁一行目の末尾に続けて、次のとおり付加する。
「なお、被控訴人がY1に交付した委託証拠金は、Y1から控訴人に入金されていないものがあり、控訴人が発行した委託証拠金の預り証の記載との間には金額や日付に食い違いがある。」
10 同二八頁一行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「11 被控訴人とBは、本件取引開始後、控訴人から『委託売付・買付報告書および計算書』(乙第一八号証の1ないし●●●、第一九号証の1ないし29)の送付を受け、『残高照合通知書』(乙第二〇、二一号証の各1ないし3)の送付を受けたが、その内容を確認せず、Y1の説明を鵜呑みにし、建玉もすべてY1の指示に従っていた。
12 被控訴人は、平成元年一一月八日ころ、控訴人のY1以外の外務員から電話連絡を受けて豊橋乾繭の建玉を承諾したところ、Y1から連絡なしにして貰っては困ると注意され、以後控訴人に対してはY1に一任しているとの返事をしていた。
13 被控訴人とBは、本件取引の過程で、計算上は利益を挙げ、控訴人から帳尻金を受領し、その領収書を作成しているが(乙第一六号証の1ないし7、9ないし11、一七号証の1ないし6、8ないし11)、これらのうち実際に受領したのは、平成元年一〇月二五日の一〇万九八七八円と同年一一月二日の五五万三六六一円のみであり、他はY1が次の取引の証拠金に用いるとの理由で現実には受領せず、次の取引の証拠金に全部が用いられたものでもない。
14 被控訴人とBは、平成元年一〇月下旬になって、これまでに提出した委託証拠金の額と控訴人から通知を受けた証拠金の残高とが一致していないことを疑問に思い、又、同年一一月にはY1の指示する追加証拠金を用意することが困難になり、年末に従業員に支払うボーナス資金の調達を心配してY1に証拠金の一部返還を求めたが拒否され、大阪穀物及び大阪砂糖取引所にも相談して、大阪砂糖取引所における粗糖取引が大幅な損になっていることを知りY1に騙されたと判断し、同年一二月二六日に手仕舞をし、平成二年一月九日に控訴人から委託証拠金の残額五三六万八四〇三円の返還を受けた(乙第一六号証の8・12・13、第一七号証の7・12)。」
11 同二八頁一〇行目から同末行にかけて「本件全証拠によっても右の被告主張事実を認めることはできない。」とあるのを、次のとおり訂正する。
「Y1は、平成元年八月中旬から同年一〇月一八日ころまで約二か月間にわたって何度も被控訴人とBに対し商品先物取引を勧誘したことからみて勧誘の過程で商品先物取引の仕組や危険性についてもある程度言及したことがあるものと推認されるが、商品先物取引に消極的な被控訴人とBを取引に勧誘するため、約二か月間も繰り返し電話で被控訴人とBを説得したことや、先にみたファックス文書に示された取引を続けて行けば最後には利益を得ることができるというY1の商品先物取引に対する極めて楽観的な相場観なり、継続させるための強引な手法からすると商品先物取引の投機性、危険性に対する説明が部分的なものであって、商品先物取引を全く知らない被控訴人とBに対する説明としては極めて不十分なものであったと推認され、他にY1の被控訴人とBに対する説明が控訴人主張の内容にわたるものであったことを認めるに足りる証拠はない。」
12 同二九頁九行目の「ことはできず、」の次に、次のとおり付加する。
「なお、被控訴人とBがY1から『商品取引委託のしおり』『商品取引ガイド』(乙第三号証の1・2)、『受託契約準則』(乙第六号証の1・2)の交付を受けて一読したことは、原審における被控訴人の供述によって認められるところであり、『危険開示告知書』(乙第六号証の3)も併せて交付されたものと推認されるが、Y1がその内容を逐一説明したとは認められず、被控訴人とBの商品先物取引に対する知識、文書に対する読解力からみてその記載内容を理解することができたとはいえず、」
13 同三一頁一行目の「したがって、」から同六行目までを次のとおり改める。
「したがって、被控訴人とBは、右各書類に署名したということから、控訴人から『商品取引委託のしおり』『商品先物ガイド』『受託契約準則』『危険開示告知書』の内容の説明を受けたものということはできず、商品先物取引一般について漠然とリスクの大きさを知っていたとしても、商品取引の開始に先立ち、商品先物取引の仕組についての一応の理解のもとに慎重な投資判断を期待できる程度にその危険性を認識していたものと認めることはできない。」
14 同三一頁七行目の「平成元年八月一八日」を「平成元年一〇月一八日」と訂正する。
15 同三二頁二行目から同三三頁六行目までを、次のとおり改める。
「三 控訴人の責任について
1 商品先物取引員としては、顧客に対して商品先物取引を勧誘し、顧客から取引の委託を受けるに当たっては、顧客の経歴、能力、知識、経験等により、商品先物取引を行うについての適格性の有無、程度を判断した上で、顧客に損失発生の危険についての判断を誤らせないように配慮すべき注意義務があるというべきである。
以上の事実関係を前提として控訴人の責任を検討すると、Y1は、商品取引員の登録外務員として、顧客に対し断定的判断の提供をしたり、取引の一任を受けたりしてはならない立場であるにも拘わらず、堅実に鉄工業を営み投機取引をする意思を持たず、商品先物取引の仕組について一応の理解のもとに慎重な投資判断を期待できる程度にその危険性を認識しておらず、商品先物取引の適格性を有すると認め難い被控訴人とBに対し、執拗に商品先物取引を勧誘し、利益が大きくしかも確実な取引であると誤解させる説明を行い、又、Y1の指示に従って取引すれば利益が確実である旨の断定的な判断の提供を行ったものということができる。
又、Y1は、被控訴人とBから実質的な取引の一任をとりつけた上、取引開始に当たり本来一枚が取引単位であるのに五枚が取引単位であるように説明したり、取引開始から三か月の建玉枚数を原則として二〇枚に限ることとしているにも拘わらず、取引開始後の一二日目の一〇月三一日に二〇枚を超え、一か月後の一一月二〇日に二九〇枚にも達する過当な取引をさせたり、頻繁な建落の繰り返しによる手数料の増大を生じさせたり、神戸ゴムの取引において証拠金不足のまま平成元年一一月二日の建玉をさせたり、豊橋乾繭や大阪粗糖の取引において両建をさせたりしていたものということができる。
被控訴人とBは、Y1から商品先物取引の危険性を説明した前記各文書の交付を受けたもののこれを十分に理解することができないままY1の断定的判断の提供を信じて、Y1に商品先物取引の具体的な売り買いの決定を一任し、Y1の求めに応じて委託証拠金として現金合計二〇〇五万円を交付したものということができる。
以上によれば、Y1による本件先物取引の勧誘は違法行為とみることができるだけでなく、取引の過程における取引方法も違法行為を構成する場合があるものということができる。そうだとすれば、Y1の行為は不法行為を構成するとみるべきであり、Y1の右不法行為は控訴人の事業の執行についてなされたものといえるから、控訴人は、Y1の使用者として民法七一五条により、被控訴人とBが被った損害を賠償する義務がある。
控訴人の従業員Y2の被控訴人とBに対する行為については、これを不法行為と認めることはできない。
2 控訴人は、被控訴人とBが兄弟で、四〇歳前後という分別盛りの年齢で、a製作所という企業を八年間にわたって共同で経営してきた者であり、二〇歳のY1の勧誘を全面的に信用して騙されて、Y1に渡せば損をするはずがないと考えて事業に必要な資金を次々とY1に交付したなどとは到底考えられず、経営者として自己の判断もなく他人の言いなりに現金を交付する筈がなく、その年齢、社会的地位、経験等から、少なくとも物の価格変動の可能性とか経済に関しては、通常の社会人一般の水準を超える分別、判断力、理解力を有する人であり、はったりや誇張やデータに基づかない意見などは看破する知識、能力を持っているはずであり、自らの責任と判断で本件先物取引の委託注文をしたものであると主張する。しかし、先にみたとおり、Y1は、若年で、登録外務員になって数か月にすぎないのであるが、被控訴人とBに対しあたかも相場師として委託者の取引を指導しているような態度に終始し、必ず儲かるとの断定的な判断を提供したために、商品先物取引に無知で理解力に乏しい被控訴人とBがこれを信じて取引を委託したものであり、控訴人の右主張は理由がない。
控訴人は、被控訴人とBが控訴人の従業員からの電話による勧誘を、時刻、時間、頻度が社会通念上許容されない程度に受けたことはなく、面会の強要や迷惑となる行為を受けたこともないと主張する。しかし、勧誘の方法や態様が社会通念上許容されない程度に至っていないとしても、執拗であり、勧誘した内容が断定的な判断の提供であり、取引の実質的な一任であることからすれば、Y1の被控訴人とBに対する行為は違法であり、不法行為というべきものである。
控訴人は、『お取引について』と題する書面や『お願い』と題する書面(グリーン用紙)によって中学生でも理解できるやさしい文章で商品先物取引には危険性があること、取引を控訴人の社員に任せてはならないこと、不審な取引に気付いたときは控訴人営業管理部に電話して欲しいことを告げているから、被控訴人もBもこれを理解していた筈であると主張するが、先にみた事実からすると、被控訴人とBは、Y1の説明を信じていたのであり、右各書面を一読したもののY1を信じていたためこれを受け入れなかったものである。
控訴人は、Y1が本件商品先物取引を開始するに当たり、被控訴人らに対し、小豆相場変動の要因、相場の危険性、損計算になった場合の対処法としての手仕舞、追加証拠金納入による建玉維持、両建による方法、ナンピンによる方法、それぞれの効用と対処法、証拠金の額などについて説明したと主張する。しかし、先にみたとおり、Y1は、商品先物取引の勧誘を急ぐあまり利益が大きく確実な取引である点のみを強調し、しかも、商品先物取引を続ければ利益が得られるという相場観を示して、被控訴人とBに接していたのであって、商品先物取引の仕組について一応の理解ができる程度に説明し、慎重な投資判断を期待できる程度にその取引の投機性や危険性を説明した事実を認めることはできない。
控訴人は、控訴人の社員Cが商品先物取引について説明し、更に、新聞の見方、計算方法、売買方法、当時の市況等を補足説明し、限月と場節等の説明をし、計算方法、追証がかかったときの計算の仕方、手数料、追証を入れる場合及び両建の場合のことを説明図を書いて(乙第二九号証の1ないし3)、C自身だけでも三〇分程かけて説明したと主張する。しかし、原審証人Cの証言によれば、乙第二九号証の1ないし3自体はCが被控訴人らに対し説明する際に使用した書面ではないと認められ、取引を続ければ必ず儲かるとのY1の説明を信じていた被控訴人とBがCの説明によって商品先物取引の危険性を理解したと認めることはできない。
控訴人は、被控訴人とBがY1やCの説明を聞き、前記『商品取引の委託のしおり』、『商品取引ガイド』、『お取引について』、『お願い』(グリーン用紙)の交付を受けて読み、右各書面の受領書を提出し、アンケートにも重要事項の理解ができ異議がないと明確に答え、相場が予測と逆になった場合のこと、追加証拠金のこと、不納付の場合にどうなるか等のことを理解、認識したのであると主張する。しかし、先にみた事実からすれば、被控訴人とBは、Y1から、控訴人の他の従業員の説明や指示には従わず、Y1にすべて一任するように求められ、これに従っていたのであるから、右主張は理由がない。
控訴人は、被控訴人とBが控訴人から交付された各種の書面を読めば、容易に商品先物取引の仕組や危険性が理解できるのであって、これを読まずにその仕組や危険性を知らなかったと主張するのは、信義に反し許されないと主張する。しかし、先にみたとおり、Y1は、被控訴人とBが書面の記載に対する読解力が十分でないことを知りながら、口頭による説明を信じさせて本件取引に引き込んだものであるから、被控訴人とBが取引の危険性を知らなかったと主張することが信義に反し許されないというものではない。
控訴人は、被控訴人とBが本件取引の過程で、利益を挙げ、控訴人から頻繁に帳尻金を受領し、その領収書を作成している(乙第一六号証の1ないし13、一七号証の1ないし12)と主張する。しかし、先にみたとおり、被控訴人とBは、本件取引による利益金として平成元年一〇月二五日の一〇万九八七六円と同年一一月二日の五五万三六六一円のみを受領し、これ以外のものはY1が次の取引の証拠金として使用するとの理由で現実に受領していないのである。
控訴人は、被控訴人とBが取引の都度、控訴人から『委託売付・買付報告書および計算書』(乙第一八号証の1ないし●●●、第一九号証の1ないし29)の送付を受け、『残高照合通知書』(乙第二〇、二一号証の各1ないし3)の送付も受けているが異議をとなえたことはないと主張する。しかし、右事実があるとしても、先にみたとおり、被控訴人とBはY1の説明を信じていたのであり、右各書面の記載内容を検討したり、異議を述べたりしなかったことから、本件取引の違法性が否定されるものということはできない。
控訴人は、被控訴人とBが、取引終了に当たりこれを確認した『ご挨拶』(乙第二二号証の1・2)及び『領収書』(乙第一六号証の8・12・13、第一七号証の7・12)にも署名し、納得の上で控訴人との間で委託した取引の終了を合意していると主張する。しかし、先にみたとおり、被控訴人とBは、平成元年一〇月下旬になって、これまでに提出した委託証拠金の額と控訴人から通知を受けた証拠金の残高とが一致していないことを疑問に思い、又、同年一一月にはY1の指示する追加証拠金を用意することが困難になり、年末に従業員に支払うボーナス資金の調達を心配してY1に証拠金の一部返還を求めたが拒否され、大阪穀物及び大阪砂糖取引所にも相談して、大阪砂糖取引所における粗糖取引が大幅な損になっていることを知りY1に騙されたと判断し、同年一二月二六日に手仕舞をしたのであるから、被控訴人とBが平成二年一月九日に控訴人から委託証拠金残額五三六万八四〇三円を受領した際に控訴人との間で取引全般を確認した旨の御挨拶と題する書面(乙第二二号証の1・2)に署名したからといって、控訴人との関係を解決済みとする趣旨でしたものということはできない。
控訴人は、Y1には、被控訴人とBの権利を侵害する故意や過失がなく、商品取引員や外務員は、委託者の利益のために行動しているのであって、委託者と対立関係にあるのではないと主張する。しかし、Y1は、被控訴人とBに利益を与える考えの下に取引を勧誘したとしても、先にみたとおり、断定的判断を提供したり、取引の一任を取り付けているのであるから登録外務員の行為としては違法であり、過失があるというべきである。
控訴人は、被控訴人名義の取引の差引損益が別紙一、二記載のとおり九八七万八四〇七円の損失となり、B名義の取引の差引損益が別紙三、四記載のとおり一二七万七四八四円の損失となり、本件取引における全損失は一一一五万五八九一円であり、大阪小豆、豊橋乾繭、神戸ゴムの取引は、両名ともに利益であり、利益を生じた取引が不法行為となるものではないと主張する。確かに、被控訴人とBは、Y1の本件先物取引の過程における違法な取引方法により損失を生じさせられたというだけでなく、Y1の違法な勧誘行為により過大な危険を含む本件先物取引委託契約を締結させられたということになるから、本件における全商品取引による清算後の全取引差損が本件不法行為による損害とみるべきである。しかし、先にみたとおり、被控訴人がY1に交付した委託証拠金が全額そのまま取引に用いられたといえず、取引による利益金の多くが次の取引に使用するとしてY1の下にとどめおかれたままとなっていたのであるから、右計算上の損失額のみをもって被控訴人の被った損害額ということはできないのであって、控訴人の右主張は採用できない。」
16 同三四頁八行目から同九行目にかけて「そして、成立に争いのない甲第二三号証の一、二によれば、請求原因4(一)(2)②の事実が認められる。」とあるのを次のとおり改める。
「先にみたとおり、本件商品先物取引は、当初被控訴人名義で、次いでB名義でも行われたものであるが、Bの取引名義は便宜的なものであり、被控訴人がB名義の取引を含めて全部の委託証拠金をY1に交付したものであるから、取引の名義の如何を問わずY1の本件不法行為による委託証拠金の損害は全額が被控訴人に発生したと認められる。」
17 同三五頁四行目の「当該書類の記載内容を少しでも注意して検討し」の次に「、自分たちで理解できないのであれば他に相談するなどし」を付加する。
18 同三六頁二行目から三行目にかけて「被告らが原告に賠償すべき額は八四一万八三六〇円である。」とあるのを次のとおり改める。
「控訴人が被控訴人に対し賠償すべき額は八四一万〇八三六円である(14,018,060円×0.6=8,410,836円)。」
19 同三六頁三行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「被控訴人は、知識経験を欠き商品先物取引を行う適格性がなかった被控訴人とBが控訴人の従業員の極めて悪質、違法な勧誘及び取引行為によって本件商品先物取引をしたのであり、右勧誘行為及び取引行為がなければ本件商品先物取引をして損害を被ることはありえなかったのであるから、被控訴人とBの行為が過失相殺の対象となるものではないと主張する。しかし、先にみたY1の被控訴人とBに対する勧誘及び取引行為の違法性ないし過失の内容、程度と対比してみても、先にみたとおり、被控訴人とBが取引開始時に交付を受けた書類を少しでも注意して検討し、自分で理解できないのであれば他に相談するなどして商品先物取引に関する認識を深めればY1の必ず儲かるとの勧誘や具体的な売り買いの注文に不審の念を抱くことができ、損害の発生を回避し少なくとも損害額を最小限にとどめることができたというべきであるから、被控訴人とBにも過失があり、過失相殺を否定すべきものということはできない。」
二 結論
以上の理由により、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右八四一万〇八三六円に弁護士費用九〇万円を加算した九三一万〇八三六円及びこれに対する不法行為の後である平成二年六月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余を棄却すべきである。したがって、右と同旨の原判決(但し、違算がある。)は相当であって、控訴人の本件控訴及び被控訴人の本件附帯控訴はいずれも理由がないから棄却することとする。
原判決主文第一項中、控訴人に関する部分に「九三一万八三六〇円」とあるのは「九三一万〇八三六円」の違算であることが明白であるから、主文のとおり更正することとする。
控訴費用及び附帯控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 井土正明 裁判官 横山光雄)
<以下省略>